A-CUP CLUB DIARY -SEASON THREE-



信長の野望


蒸し暑い、夏至の日の京都の夜だった。
備中高松で戦う羽柴秀吉の援護を命ぜられた明智光秀は、突如、桂川で踵をかえす。「敵は本能寺にあり!」秀吉の援護には向かわず、自身の主、織田信長に反旗を翻した。

世に言う本能寺の変である。

天下統一を目前に倒れた信長の心中、いかばかりであろう。
あたくしは、ほほを伝う涙をぬぐいながらぱたんと『信長公記』を閉じた。

ああ、いまのあたくしほど信長のきもちが理解できる人間はほかにおるまい

そうだ、天下は目の前だったのだ。あとすこしで、あたくしはチームトップタイムをたたきだしオートショップアオヤマの勢力図が塗り替えられ、翌日には晴れてあたくしの天下となるはずだったのだ。なのになぜ、ああ、なぜあたくしは、筑波サーキットの第一ヘアピンでコケたのか?!

あのとき、転倒直後、屈辱に耐えかねて、あたくしはオフィシャルに向かって叫んだ

蘭丸*!介錯をっ!

「姫っ!すぐ参りますっ」

オフィシャルはそう言ったが、来たのは救急車だった・・・

コケるだけならまだしも、もれなく骨折もついてくるというこの始末に、もうあたくし骨も心も複雑骨折。「あ〜カッコわる〜・・・」と何度も救急車の中でつぶやく信長公にそんなことないですよ、とオフィシャルのにーさん。おやっ、よく見るとちょっとイケメンじゃないの!!ここはしおらしく痛い痛いと泣いたフリしたほうがカワイイだろうか、などと煩悩がよぎるあたり、あたくしの天下はまだまだなのかもしれない・・・

「つーか、20年早いわ!ヴォケ!」

てんちょーとブンゲンさんの罵声と高笑いが頭の中でリフレインしていた

(つづく)


*蘭丸=森 蘭丸、信長のお小姓

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2013年12月02日(月) No.318 (レース)

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